喧嘩をした。
普段から仲が良くて今まで喧嘩なんてしたことがない。

でも、アレはスクアーロが悪いんだ。
人の事をゴミのように言うのだから。

そんな姿を見せられたら、不安になる。






「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」


ヴァリアーの食卓もこの2人が喧嘩中となると何とも暗い物となってしまうのだ。
仕方がない、といえば仕方がない。
スクアーロがを怒らしてしまったのだから。しかし、理由はの方が明らかにおかしい。

このマフィア、と言う世界の中で人に情を駆けるなどと言うのは下らない、と言われても仕方がないのだから。



「…ご馳走様でした」
「…う゛お゛ぉい……」
「ザン、わたしちょっと街の方に行って来るけど何か買う物ある?」
「……」
「…特にねぇ」


スクアーロの言葉を明らかに無視してのザンザスへの問いかけ。
誰もが沈黙、と言う言葉に押しつぶされそうになるくらい気まずい。

そんなの態度にスクアーロも機嫌悪そうにまた黙りだす。
誰もがこのカップルにもついに終わりが訪れた、と内心確信した。中には次は俺のものにしてやろう、とか言う考えを持つ物も数名。

そんな中ザンザスが溜息混じりに告げた。


「…、後で俺の部屋に来い…」
「…はァーい」


久々に、みたの笑みは自分に向けられた物ではなく自分が一番嫌いな上司のザンザスに向けられた物だった事にスクアーロはまた機嫌を悪くした。
ザンザスの言葉に笑顔で返したことでルッスーリアはつい口を滑らせて尋ねた。


「あんらァ!はボスと付き合いだしたのぉ?」
「…………」


「羨ましいわぁ!」と言いながら言うルッスーリアに誰もが殺意を覚えた。
ベルに限ってはルッスーリアに言う。


「空気読めよ、変態」
「あんらァ!何て事いうのぉ!わたしそんな事言われたら興奮しちゃ」


ルッスーリアの危険な言葉もあっけなく押し黙らされる事となる。
何故、か。それはスクアーロの機嫌がMAXに不機嫌な状態で荒々しく立ち上がったからだ。
がたん、と言った木材の音が自棄に響く。


「…自分の食器くらい自分で運びなさいよ」
「うるせぇぞぉ」


途中がスクアーロに嫌味っぽくそう言うとスクアーロは一言低い声で返しザンザスを一瞥する。


「…あ?」
「…ち…っ」


ザンザスの言葉に舌打ちを返してスクアーロは何とも言えなそうな程の表情を浮かべて食卓から姿を消す。
荒々しくドアが閉められた途端、その場の誰もが気の抜けたような息の吐き方をする。


「ふぃー!…、もうあやまっちゃえばー?」
「ベルには関係ない!」
「だからっていつまであんな空気の中で俺ラに飯食えっつーんだよー?なぁ?ボス」


ベルの言葉にザンザスはいつもの調子で返す。


「…興味ねぇ、別れるなら別れちまえ」
「それはやだ!!」
「…面倒くせぇーなァー……、大体、が悪いんじゃねぇの?流石にアレは」


ベルの言葉に誰もが同感だ、と内心呟く。
何を甘っちょろい事とを言ってるんだコイツは。コイツだって人を殺すこともする。
なのにスクアーロのソレを怒れた義理なのか。


「……アレは、スクが悪い…の…」
「…意味わかんねーんだけどー」
「狂ってるベルにはわかんない!」
「狂ってるとかすげぇうぜーんだけど、俺っていたって正常だっつの」


そのベルの発言に誰もが軽く「いや、違うだろう」と言った否定の言葉をかける。確かに仕方がないと思う。
ベルがおかしいというのは事実だからだ。
すると、ザンザスも食事を終えたのか立ち上がりベルと言い合って床に立ち尽くすの腕をひっぱる。


「行くぞ」
「え、あ、うん…」


ザンザスに引張られて有無も言わさず連れ去られる。いつもの事ながら勝手な男だ。
そんなことを思いながらも自らがスクアーロに怒ってる理由についての事で軽く怒られるのかもしれない、と不安もにはあった。

ザンザスに腕を引かれる中うしろを振り向けば個々勝手に下らないことを言っていた。

「あんらー、スクアーロとは別れたのね?」
「ボスも隅に置けないね」
「…の奴…ボスに何をいうつもりだ?!」
「…はっ、せーぜー怒られて来いよ〜」

特に、ベルの言葉には軽く青筋を浮かべたのだった。













部屋に戻り荒々しくドアを閉める。
明らかにはたから見たらあたってるという風にしか見えないはずだ。しかし、今はそんな事どうでも良い。

の朝一番の笑顔は今までもこれからも自分だけの物だと思っていたのに、たった今その笑顔は俺には向けられる事無く一番嫌いな男に向けられた。
ふざけんな、と言う思いもある。しかし、コレは立派な嫉妬と言う物。
今までは誰よりもに愛されてることを実感できていたからそこまで苦しいと思ったことなどは無かった。


あの時のあの発言は確かに不適切だったとは思う。
が一番聴きたくない言葉だったはずだ。しかし、そこまで怒られる理由がスクアーロには分からなかった。


(くそ…っ)

―― なんで、そんなに死んだ人に対して言うの?!
―― あ?何言ってんだァ?
―― そんな、スク嫌い、人の痛みが分かる人だと思ってたのに。――― 最低っ!

一瞬の出来事だった。一緒にいたベルだって意味わかんね―と言ってたしな。
けど、の何かにふれちまったのは明らかな事だ。


「…ち…」


スクアーロの舌打ちの後、部屋の鍵を閉めた音が自棄にしんみりと響いた。











「…ザンザス…」
「そんなに嫌だったのか」


ザンザスの部屋に連れて来られた。
机に足を乗せながら偉そうにソファーに腰をおろすザンザスにそういわれは小さく頷いた。

そして、ザンザスの隣に軽く腰をおろす。


「…、私が、甘い、って…言われるのは良く分かってる。けど…、けど…」
「………」


ためらいがちに言葉を詰まらしている
スクアーロならここで問い詰めるところだろう。やはりそこらへんに関してはザンザスは大人だ。

問い詰めてもの言葉が出てこないのを知ってか黙っての次の言葉を待つ。


「…でも…、そんなのあんまり、だと思った…から」
「…何の事だ?」


の言葉に疑問符を浮かべて尋ね返す。


「私が、死んでも…あんな事、言うのかな…って思ったら」


なんだか、寂しくなっちゃったんだよ。
意外なの言葉にザンザスはつい目を見開いてしまった。しかし、何ともらしい理由だ。

ザンザスから見てスクアーロはにべたぼれな状態何だ。
が死に冷たく成り果てた身体に大しても愛情を持つだろう。たとえ何か悪態をついたとしてもソレは自分の感情を抑えるのに必死。という姿だ。
任務で殺した奴等ととではスクアーロにとっては比べる価値もない存在。

…コイツはこんなに愛されているのに未だにそんな事も自分で判断できないのか、とザンザスは溜息をつく。
すると、はその溜息に対してムッとした表情を見せる。


「何で溜息なんかつくの…?」
「…下らねぇ事で飯不味くしてんじゃあねぇよ」
「!な!!」


ザンザスの言葉ではより一層に眉間に皺を寄せた。
しかし、ザンザスは気にも留めずに隣に座るの腕を引張った。
急なことには対処しきれずザンザスの膝の上に座る。


「…ど、した…の…、」
「だったら俺のところに来るか?」
「――は…?」


はザンザスの言葉にそうとしか返すことが出来ない。
一瞬で判断出来るような内容ではないからだ。


「俺だったらあのカスみてぇな思いさせねぇ、どうする?」


ニヤリ、と口端をあげながら言ってくるザンザスに余計に口を篭らす。
明らかに、とスクアーロの中を気遣った行為。という事には気付いていた。


「…いい…、スクの所が…」
「だったらさっさと謝って来い、面倒くせぇんだよ。テメェら」


ザンザスはそう言うとの腕を開放した。
はザンザスの目の前に立ち小さく呟く。


「ザンザス、本気で私に惚れてた?」
「はっ、言ってろ」
「…ありがと」


小さくザンザスに向かって会釈をしては扉の方へと足を運ぶ。
ザンザスはそんな姿が部屋から消えてから小さく呟く。


「世話のかかる連中だ…」












ザンザスの部屋を出た後はスクアーロの部屋を目指した。
スクアーロに謝らなくてはならないことを忘れては居ない。
そして、伝えなければならないんだ。

この、胸に抱いた不安を。


「スクアーロ…」


スクアーロの部屋の前で小さく愛しい人の名を呼ぶ。
しかし、その返答は無い。…いつも勝手に入っていた部屋がここまで入るのに勇気が居るものだったなんて。
コレも全て自分の責任なのは百も承知なのだが…。

扉に手をかけると鍵が掛かってることがスグに分かった。


「…スク…、…あのね…」
(……何のようだァ?)


やっと返ってきたドア越しの声はいつもより不機嫌そうで不安になる。怒ってるのか、許してもらえるのか。
けれどもやっとか言ってきてくれた大好きな人の声に安心する。

スクアーロもまた不安があった。だからこそ冷たい言葉を吐いてしまう。
別れ話でもされるのか、と。


「…ごめんね、この前…わたし…」
(………)
「私が、死んでも…スクが…あんな事、言うのかな…って、…思ったら、ね…」
(……っ)


ありえない言葉を口にしている恋人にスクアーロは目を見開き吃驚する。
何を言ってるんだ。この女は、と。

声が震えている。
きっとドアの向こうで涙を流して肩を震わせているんだろ…。
今すぐに抱きしめてやりたい。でもそれより先にあるのは意地、と言う言葉だ。


「で…も、し…そうだったら…私、1人…になっちゃう…し…寂しいな…て、思った…、の」


ゆっくりと、ドアが開く。
そして、スクアーロはやっとの姿が見えた。はその場に座り込んで足を抱え、肩を震わせている。
意地より何より手の届くところに居るのに抱きしめられない自分の方が数倍もかっこ悪い。


「…スク…、ごめ…んね…ごめ…お願いだから…、別れる、とか…」
「言う訳ねぇだろぉ…」
「――っ」


急に抱きしめられたことには吃驚した。
けれど、伝わってくるスクアーロのぬくもりが暖かくて仕方がない。


「スク、ごめん…」


恋人の背中に腕を回して告げる。
スクアーロもその言葉に返す。


「…俺も…悪かった…」


しかし、肝心なのはそこじゃない、という事はスクアーロが一番わかっていた。


「…、俺は、お前が死んでもぜってぇにお前を愛すぞぉ?」
「――…っ…、私、も…ありが…」


の言葉を遮ってスクアーロはの唇に自分のソレをくっつける。
だんだん、深いキスにしていくとの息は荒くなっていく。


スクアーロは考えていた。
この長い長いキスが終わった後何を言ってやろうか。

ベットに行くのもいいが、先に告げたいことがある。
きっとへらっと笑うであろうに「愛してる」の一言と。




始 ま り か ら 生 ま れ た 物 語

(俺は初めてあった日のお前の笑顔に、惚れたんだから泣いたりするな)





END


novel by...ユウリ(S.H)  back by...NOION