「ねぇ、、」
「ん・・・・・恭弥?・・・・邪魔ぁ・・・・・・」
「邪魔?襲うよ」
「ヒ!!す、す、すいませ・・・・・・!!」
「その反応もムカつくな」
夜。
夜と言っても好きな俳優が主役を演じるドラマがやってるような夜じゃなくて、駆け出しの芸人が体張ってる番組がやってるような夜。
つまり、殆んどの機能が休んでいる深夜。
しかも、とっさに時計を見たら、お化けが一番出やすい時間帯だった。
そんな時間にヒバリはあたしの上に乗り、今にも組しかれるような体勢をしている。
そういや、窓の鍵を閉めてなかった!と軽く心の中で叫んだ。
「何しにきたの!?」
「何しに来たと思う?」
「・・・・・・マジで夜這いとか?」
「がその気なら別に良いけど?」
「ちょ、まった!!」
防衛本能なんて言葉があるかはしらないけど、もしそんな言葉があったら、本当に人間にはその本能が備わってると思う。
普段だったら絶対に恭弥を蹴るなんてできないのに蹴っちゃったよ。おそるべし、防衛本能、と思わず感心してしまった。
「そっか、。先に死にたいんだね」
「自殺願望はこれっぽっちもないからね!!まった!」
「まった、無し」
「ありです!」
片手にトンファー、もう片手は私の横についている。
思わず私はトンファーを持ってる腕に飛び付くようにして絡み付いた。
こんな真夜中にトンファーで襲われるのはまっぴらゴメンだし、何より悲鳴をあげたら親が駆け付けてくるからそれは避けたい。
「大胆だね、」
「や、ちが」
寝ていた上半身だけ起こして恭弥の腕に絡み付いたこの体勢から、私はそのまま恭弥とともにベッドにダイブした。
そして、首もとに顔をうずめられた感覚がして、本気でヤバイと、背中に冷や汗が流れる。
「ちょ、きょ、や。ちょっと、ホントに用事って何?」
「夜這いでいいんじゃない」
「いいんじゃない、とかじゃなくてっ、・・・・・・お、お母さん呼ぶよっ!?」
私のその一言で恭弥はパッと私から離れた。
初めからこの方法を使えばよかった、と思いながら私は逃げるようにベッドからころげ落ちる。
恭弥と私は昔からの仲で、しょっちゅう私の家で晩ご飯を食べたりしてた恭弥にとって、私のお母さんのランクはかなり高いらしい。
お母さんの前だと、普段使わない敬語をしっかりと使うし、私がどれだけ恭弥をからかってもトンファーを出す事だってない。
(でも、後で痛い目に合うって事を学習したから私は何も言わなくなったけど)
そんなお母さんにこんな現場を見られたら恭弥にとって、多分ものすごく困る事だ。
「で、ホントに何しにきたの?」
「別に、何となく」
「何となくで夜に女の子の部屋に侵入するな」
はずされかけたパジャマのボタンを止め直しながら、私は溜め息をついて部屋の照明をつけた。
暗闇になれていた目が眩しい、と少しだけ主張している。
「なんか飲む?」
「いらない」
「あ、そう」
また、押し倒される可能性もあるから、私は警戒しながらカーペットにクッションを抱えて座った。
そんな私の行動に不満を持ったのか、恭弥は凄く不機嫌そうな顔をしている。
じっと私を見てくるもんだから、私も負けじと恭弥を見ていたら、恭弥は大きな溜め息をついた。
「ちょっと、溜め息つきたいのはコッチなんだけど?」
「」
「なによ」
「こっち」
「は?」
「おいで」
こりゃ、絶対に何かされると瞬時に判断した私は嫌だ、と首を横に振る。
「いいから来て。押し倒すよ」
「・・・・・・・そっち行っても押し倒さない?」
「多分ね」
多分。
その多分が怪しいけど、これ以上不機嫌になられでも困るから、私はゆっくりとクッションを抱えたまま、ベッドの縁に座っている恭弥の前に立った。
「後ろ向いて」
「・・・・・・マジでなにすんのよ」
「いいから」
「・・・・・う」
有無も言わさぬ雰囲気に圧倒されて私は後ろを向いた。
恭弥が背後にいるから何されるか分からなくて怖い。
その時だった。
「ちょ、わっ・・・・・・・・・・」
いきなり恭弥の腕が私のお腹に回ってきてそのまま後ろにいる恭弥の所に倒れるようにして引っ張られた。
思わずびっくりして、抱えていたクッションがポトリと下に落ちた。
そうして、私はいつの間にか恭弥の足の間に座る事になり。
何かしてるじゃんか、と言いたい所だけど、言えない。
「もう、いきなりやめてよ」
「やだ」
「ちょ、待った!」
「だから、待ったなし」
ギュウ、と後ろから強く抱き締められて首に顔を埋められる。
恭弥のサラサラした髪の毛が首もとに当たって、それが無償にくすぐったい。
ハァ、と溜め息ではなく息をついたをついた恭弥に思わずドキリと胸が高鳴る。
「ねぇ、」
「な、何っ?」
「そろそろ、こーゆー関係になっても良いと思わない?」
「こーゆーって・・・・・・」
「だから、こーゆー事」
耳元で囁くようにつむがれる恭弥の声。
少しだけ低くて、甘くて、かすれた声に自分の顔が赤くなるのが分かる。
それと同時にパジャマの中に手がゆっくりと入ってきて、指先でお腹をなぞられながら上へ伝っていく。
「まっ・・・・・きょ、やっ・・・・・」
「僕、ずいぶん我慢したんだけど。僕の事嫌い?」
「嫌い・・・・・・じゃない、」
「じゃぁ、好き?」
「・・・・・・・す、き、」
「じゃぁ、良いね」
耳元で甘く囁かれ、息を交えて喋ってくる恭弥の声にだんだんと力が抜けてくる。
「、こっち向いて」
「ちょ・・・・・・んっ」
顔を横に向けたら、ぐいと強く顎を掴まれてそのまま恭弥の唇が私の唇に重なった。
最初は、触れるだけの、それでももの凄く長い、長いキス。
ちょうど苦しくなったときに、恭弥の唇が離れ、私は慌てて新鮮な空気を取り込んだ。
「可愛い」
そう呟いた恭弥は、今度は咬み付くように少しだけ荒々しく唇を重ね、そのまま深くとろけそうなキスへ変化する。
「・・・・ふっ・・・・・ん・・・・・・きょ、や・・・・・・も・・・・・・」
「・・・・・・・ま、今日はこれくらいにしといてあげるよ」
「あ、待って!」
唇が離れたら恭弥は私から離れ、ベッドから降りて窓へ向かって歩いていく。
少しだけボーっとなった頭をフル回転させながら、私は慌てて恭弥を呼び止めた。
何?と言ってチラリとこっちを見てくる恭弥に少しだけ恥ずかしくなりながら、
「来るとき連絡してくれれば、鍵開けとくし、お茶くらい用意しておく・・・・・」
「あぁ、これから毎日来るから連絡なんていらないでしょ」
「なっ、毎日!?」
「あと、明日はコレだけじゃ済まないからね」
「ちょっ・・・・・・・」
コレだけじゃ済まない、と言う言葉に更に顔が熱くなるのを感じた私。
そんな私を見て、笑った恭弥は、じゃぁね、と窓から飛び下りて行った。
ドキドキと煩い心臓を抑えながら、私は部屋の照明を消し、ベッドに入った。
今日はドキドキして、もう寝れそうにもない。
|