侵食だ。
それはかなりゆっくり、じわじわと確実に。
酢につけた卵の殻が溶けていくように。
知らないうちに過ぎてゆく毎日のように。
止まらない。止まらない。止まりはしない。
それは尊敬か、はたまた同情か。
もしくは、してあるいは崇拝ですらあるのかもしれない事柄。
それは私以外の誰かがたとえばそこにいる通行人に解るはずもないし、なにより私自身解らない。
ただそれが消えぬ内に、錆びて・・・・・・・そう卵の殻や、毎日を織り成す世界が消えない内に。
伝えなければ。
強いて言うならそれこそ『私から私への命令』であり『指令』なのだ。
そう・・・・・
最終的に言うならば
「雲雀さん・・・・・・ね。」
人伝えに聞いた彼の名前(いやより正確には苗字。らしい)をぽそりと呟いた。
なんでも最強だとか。そうでもないとか。(私の周りは矛盾だらけ。ぶっちゃけ今に始まったことじゃないの)
その雲雀についてのエピソードって言えば、そう、昨日脚をかけられ、かけ返そうとしたら脚踏まれてトンファーで殴られたって一文。
しかしトンファーの冷たさと雲雀の可愛さに九分の一の魂(それも微妙)をノックアウトされたは、以来その人物を探して校内一周し。
しかし一歩歩いて立ち止まったところに居たサイヤ人みたいな頭の子に、すぐ聞けてしまった。
ああもう凄いね雲雀さん。名物だよ観光名所だよ歴史的人物だよ。
私は雲雀(そいや名前しか知らない・・・・かもしれない)に合うまで、何かに興味と言った興味が無かった。
だから私にとっての雲雀という存在は、ぽつりとあいた・・・いや、初めからなにも無かった心を埋める、興味のわく存在。(本人にこれ言ったら134%滅多打ちだと私は思う)
「・・・・・・乗り込むか」
玩具を見つけた。そんな気分。
情報収集に出かけよう。と軽やかに言っては教室を出た。
□■□■
奇妙な奴に合った。
・・・・・・・眼が虚ろで、何にすら興味なさそうな。
・・・・・ああいう人間も、咬み殺したくなるんだけど・・・・・
その時僕は、大変穏やかだったんだろうね。
足掛けだけで済まそうとして・・・・だけど。
転ぶかな、と思ったらそうはならずに体制立て直すし、しかもかけ返してくるし。
本当、馬鹿?って言って、咬み殺したよ。
あ、でも逃げられたかな。まぁいいや。
僕の立場なら、校内の人間ならすぐ名前が割り出せた。
「・・・・。ね。」
無表情に、コーヒーを飲む。
■□■□
ここが応接室か・・・・・・
人に聞いたら怯えながらも教えてくれた。ありがとう通行人。
噂も噂だったし、・・・・・・・って言うか、なんで私今まで雲雀さんの存在を知らなかったんだろう。
こんなにも良い興味対象が近くに居たのに。な。
もったいない。
ふと見上げれば、『応接室』のプレート。
・・・・・・・・ここに。居るのかな。
コンコン、と少々乱暴にノックする。
返事は・・・・・
「誰?」
・・・・・あった。
う、うん。とりあえず返事しようか。
「・・名前言っても解らないでしょう。」
挑戦的に言ってみる。
「・・・。」
しっかりとした声が返ってきた。
・・・あれ。
「・・・・っえ?なんで名前知って・・ていうか疑問系じゃないの?!確信なの?!」
「五月蝿いよ。声で解るだろ。何の用。」
「用は無い。」
「馬鹿?」
ドアの向こうに居るから表情は解らないけど、多分無表情なんじゃないかな。
「昨日も聞いた。ていうかほらなんで名前知ってるの?」
「調べた結果だよ」
「・・・・・(職権乱用だ)」
「用が無いなら失せろ・・・・あ、でも丁度良いや。」
「何がよ。」
「ね、おいで。」
言われて、私は素直にドアを開けて応接室に踏み入った。
黒い髪、指定とは違う制服。
第一印象は、そう、興味対象だった。
だけど、改めて見ると、その顔は、その眼は、その体はとても綺麗で。
思わず立ち止まった。
同時に、眼の前の雲雀という人間の性別もホンキで考えた。
私は応接室のソファに座っている雲雀・・・先輩?だよね。を見て、歩みを止めた。
「。」
「・・・はい?」
「・・・・・・・・おはよう。」
「今まで寝てたの!?」
「そんなことはどうでも良いよ」
「良くねぇよ授業出ましょうよ!」
「誰に向かって口聞いてるの」
アンタだよ!というツッコミを飲み込んでは雲雀の向かいのソファに腰掛けた。
でも、やっぱりほら、ワクワクしてる。
今までの私にはあまり無かった感情だ。
こいつは私を見てどんな反応を示すのだろう。
怒るか?笑うか?嘲るか?貶すか?それでも良い。それを望むよ?
「・・・・・・・・・何考えてるの?」
「そっちこそ。私は得に用無いけど、貴方はあるの?」
「・・・・さぁ」
「・・・・・さあって・・」
「でも、キミはここに居てね。」
無表情の雲雀先輩の顔が、薄く笑った。
どく・・・ん
「うん。そうする。」
微笑みそうになった口を閉じては言った。
この感情はなんだろうね。
それも・・・解ってるのにどうでもいいふりするなんて、全く・・・私も馬鹿になったね。
「・・・・・変わってるね、君。」
「変わってないよ。これは私の素だよ。」
「・・・・・昨日はあんな眼してたのに。」
「あんな眼?」
「まぁこっちのが好きだけど。」
「・・・・・・。」
にやり。と、はっきり雲雀先輩が笑った。
どくん。
ああほらやっぱり。また、胸の高鳴る音。
この感情はなんだろう。
興味でもなければ、ましてや失望なんてありえなく。
だとしたら、この感情には何て名前を付けたら良い?
そう・・・・それは。
最終的に言うならば。そう、
「いくつか質問します。」
「やだよ」
「雲雀先輩フルネームは?」
「・・・知らないんだ?」
「うん」
「・・・(面白い奴)・・・・雲雀恭弥」
「・・・(綺麗な名前)なんで、あの、雲雀先輩が私を応接室に入れたの?」
これこそ最大の謎だった。
あの、あの群れるの大嫌いな雲雀先輩が・・・・私とであれ、群れるとは。
「・・・・・これは僕には解らないな。」
「へ?」
「でも解るよ」
「曖昧ですね・・・何故です?」
「キミが応接室に来たのと同じ理由だよ。」
「私が・・・えっ、興味対象?」
「うん。正式には違うよ。でもそれ」
なんでこの人は一々曖昧なんだろう・・・・でも。
それって、雲雀先輩も私と同じこの名の付かない感情を私に対して向けてるなら。(というか、雲雀先輩人間観察得意だなぁ)
それって。
「・・・・その感情、解ってないね」
「・・・・そうしときます。」
「そう。じゃあ僕もそうしとく。」
□■□■
僕にキミを愛しく思う感情があるなら、捨ててやりたい。
だけど感情はそこまで深くなく、それはもだろうと思う。
だからまだ捨てないよ。
中途半端が結構嫌いだしね。
キミはまだ迷ってるの?その感情に気づいた癖に。
でもいいよ。待つつもりはない。でも勝手に進む気もないから。
キミが結論を出さないなら、勝手に僕が言ってあげる。
最終的に言うならば、それは恋だよ。
ささやかな、灰色の。
「・・・・つーか、このトキメキが発作だったらどうしよう。」
「心臓麻痺だね。良いんじゃない?」
キスを一つ。キミの額に。
END?
雲雀さんが中途半端嫌いでも、私は好きです。こーゆー終わり方。
企画参加させていただいて本当にありがとうございました!