「ベル!あのさ、あれみた?昨日のアレ!」
「あれじゃ通じねーよ、馬鹿」
「馬鹿っていうな阿呆」
「(…)王子を阿呆呼ばわりする大馬鹿、お前くらいしかいないよ」
「え、まじ?やった、レアじゃん」
「まぁ単にオレが片っ端から殺したおかげだけどね」
「へぇ…。ってもしかして私生命の危機!?」
「そうともいうね」
「え、え、ごめんねベル」
「うしし。素直で聞き分けのいい子は嫌いじゃないよ」
ちゅ、とワザと音を立てての耳たぶに口付けた。すると、「ぎゃ!」となんとも色気のない悲鳴をがあげた。の顔をみると、熟れた林檎と同じくらいに顔を赤く染めていた。(あ、可愛い)へらり、と口元を緩くさせると、は怒った表情になってポカポカとオレの胸を叩いた。うしし、全然痛くねーの。オレより大分格が下といえども、一応はヴァリアーの一員なのに。おっかしーや。
「の殺しの道具ってなんだったっけ?」
「殺しの道具って言わないで。武器って言って」
「じゃあの武器って何なの?」
「斧」
「へぇ…斧、ねぇ」
「意外?」
「意外に決まってんじゃん」
小柄なが斧を振り回す姿は想像出来ない。の体格で斧を振り回すには、かなりの馬鹿力(別名:怪力)が必要とされるはず。さっきオレを殴ってきた力をみる限りでは……。更に想像出来なくなることは確かだ。
「あのさ、すっげー言い難いんだけど、斧ってに合わなくない?」
「そう?皆ぴったりだっていうけど」
え、誰だよにそんなこと言ったヤツ。まだオレがの戦ってるところを、見たことないから言えんのかも知れないけど、や、まじで全く想像出来ないんだよな。つーかにぴったりだって言うくらいだから。そいつら(莉央の言い方では複数いるようだ)が人殺すとこみたってことだろ?と一緒に任務がしたことがないから、正直羨ましくてしょうがない。だってオレくらいになると、回されてくる任務はSランクばかりで。Sランクは一人でこなす任務しかないから、と仕事を共にすることはないのだ。(畜生)
「オレ、の戦うとこみたい」
「なんで?」
「なんとなく」
「ふーん。じゃあボスに頼んでみたら?『と一緒に任務したい』って」
「無理でしょ」
「ベルならボスに向かって我侭言っても大丈夫だよ」
「何を根拠に…」
「普段のベルとボスのやり取りをみてて」
「そうなの?んじゃ今度言ってみるよ」
「うん。任務がもしも一緒になったときは、よろしくね」
「うしし、勿論」
流れ的に、オレとが一緒に任務をするということは、ほぼ決定になったようだ。……これでボスに了解を得られなかったらどう説明しよう。でも、オレがもしボスに了解を得られなかったとしても、は笑ってオレに「どんまい」と言ってくれそうな気がする。うん、多分…というか結構な確立でそう言ってくれる。はそういうやつだから。
「なんかさ、血で真っ赤に染まってるって想像しただけで、ゾクゾクする」
「あはは。私は血に濡れて我を忘れるほど興奮してるベルをみるのが好きだよ」
「うしし!お前超変な趣味だな、それ」
「ベルにだけは言われたくないよ」
だってしょうがねぇじゃん。実際にこんなに綺麗で汚れを知らないんじゃないかと思うほどに真っ白なが、人を殺す?しかも斧を振り回して、だ。斧って首にしても腕にしても何処にしても、ちょん切ったら夥しいじゃ言葉が足りないくらいに大量の血が流れ出るからな。当然斧を振り回しているは血まみれになるんだろう。白が汚れる瞬間。想像しただけでゾクゾクしちゃうのは普通だろう。人が錯乱してる場面をみるのが好き、なんていうのほうが異常だ。
「なんでそんな狂ってるオレをみるのが好きなの?」
「私ね、赤がすっごく好きなんだよ。勿論血の赤もすっごく好き。血に濡れてる男、ってそれだけで素敵じゃない?……って言っても理解出来ないだろうけど。ベルには血……赤が似合うと思うよ。すごく」
「へぇ。確かに理解出来ないな」
「だろうね。でもやっぱ人間だし、お互い理解出来ないとこもあるでしょうよ」
「そっか…、つかオレそんなに赤似合う?」
「うん。少なくとも私はベルに似合ってると思うよ」
「さんきゅー」
貴方に似合う色
オレも、には赤が似合うと思うよ。あくまでオレの想像の中では、だけどね。( 061026 )