昔の様に、君が僕の傍に居た時が恋しくて



君を連れて逃げ出せば良かったのかもしれない


そうすれば、君だけの傍に居れたのかもしれない



それでも、


あの人への忠誠は絶対で
















いが終わる時、の隣に居たい
















破面との戦いの為、現世に来て今日で何日経つだろう。
尸魂界であった事なんで嘘の様に何も変化のない平穏な日々。
貴方への気持ちも、少しは落ち着いた筈なのに。






「…来た…」



普通の虚とは明らかに違う、異様なまでもの霊圧。
ついに奴らがやって来た。

慌てて外に出ると、より霊圧が大きくなる。


遠くに感じるのは4体の破面。


そして

―――身に覚えのあるこの感覚。









「久しぶりやねェ。」









月を背負って私の前に現れたのは、見慣れた銀髪の男。



「ご機嫌いかが、ちゃん。」



斬魄刀の柄に掛けていた手が緩む。
躰が反応しない。



「あかんやん、そないボーっとしてたら。」



その言葉にハッとして柄を握り直すと、目の前に居たはずだった彼は既に私の隣に居て。
彼の香りがほんの僅かに鼻を擽り、間違いなく彼だと確信した。



「なんで…!」



その香りを振り払うかのように、斬魄刀を鞘から引き抜く。

その間、瞬歩を使った彼が私との間に距離を取る。
頭に血が上って上手く思考回路が働かない。


まさか彼の姿を見ただけで、こんなにも動揺するなんて。





「なんでて、の顔見たかったから。」

「…相変わらず、嘘がお上手ね…」





精一杯の皮肉を云ってみるも効果など当然ない。



「酷いわァ。恋人をそんな疑ごうたらあかんで。」



「裏切ったのはギンの方でしょ!?」



私だって瞬歩くらい使えるっていう事をお忘れ?

スッと彼の背後へと回り斬魄刀を振り下ろすと、刃は綺麗に空を斬る。
それ以上のスピードで悉く逃れる彼を追う様にして、もう数回。




「逃げないで戦いなさいよ!」




貴方の実力から云えば、私なんか簡単に斬れる筈なのに。

吼える様に言い放つも、一向に斬魄刀を手にしようとはしない。



「ボクはと殺り合うつもりあらへん。」

「私を馬鹿にしに来たの…!?」



カッとなり振り下ろした其れは、彼の白い頬に真っ直ぐな傷を付ける。
その直後、彼の瞬歩が止まった。



―――ドウシテ避ケナイノ?




「元気そうでよかったわ。」




昔の様に笑う彼が気に食わず、彼の喉に刃を突き付ける。

勢いが余り、首筋に僅かに出来た傷口。
抵抗など全くしようとしない彼。
割れた傷口から流れ出す赤。




「……!」




二度と同情なんてするもんか。


貴方が藍染惣右介と空へ消えたあの日から。
如何なる時も、そう心に誓っていた。





「どうしたん?手ェ止まってるで?」

「どうして抵抗しない!?私なら簡単に斬れるでしょ!?」



ああ、昔からやっぱり貴方は





「云うたやろ、顔見に来ただけやから。」

「私は尸魂界から破面を、藍染惣右介を倒すよう命じられてるの。
…貴方もその一員なら、今此処で殺すしか…」





「ええよ、刺しても。」





初めて逢った時から、ずっと意地悪だ。




「はよせな自分が殺られるで。」




私の手首を握ったかと思えば、自分の方へと引き寄せて。
反射的に刀を逸らしたものの、彼の頬を掠めてまた薄い傷口から赤が溢れる。

彼の白い頬が僅かに流れた赤で染まっていく。




「何で退けるん?」

「あ…わ、私…」




握っていられなくなった斬魄刀を落とすと、躰の震えが止まらない。

きっとそれは自分の無理矢理な考えと、行動が一致しないから。





「…今日はやけに大人しいんやな。」

「……誰の所為だと思って…っ!」





気が付いた頃には彼の腕の中。

ああ、此の温もりも香りも声も、総て紛れもなく彼のもので。





「…そない泣かんといて。」





あんなにも優しかった藍染隊長が。
あんなにも正義を貫いていた東仙隊長が。


…あんなに好きだったギンが。



私の前から突然居なくなった。









「っ…放、して…!」



貴方は昔からそう。




「厭や。」




私の気なんて知らずに…、




「何でボクが来たかわかる?」

「そ、なこと…」

「一緒に来て欲しいんや。」




彼を突き放そうとしても、躰は其れをしようとはしない。
任務を果たすべきだという考えと、彼への気持ちが交錯して





「行くわけないでしょ…!」





彼を突き放そうと両手に力を込めるも、彼の力には到底敵わず。


それとも私の躰が拒否していないからだろうか。





「藍染隊長も許可してくれとるんよ。」


「だ、だから何云って…」


「一緒に来てや。怖ないさかい。」





私を抱くギンの両手に力が入ると、耳元を擽る吐息。
彼の温もりが愛しく、思わず両手が背中に回ろうとしたのを理性で止める。



護廷十三隊の死神である任務も義務も、正義さえも捨て

貴方に総てを委ねても構わないのだろうか。








もボクらのとこおいで。」






ボクにはが必要なんよ。








一瞬 心が揺らいだ











気が動転する。
理性で止めた感情も、彼の一言で脆くも壊れてしまいそう。

自分が今此処に居る理由。
何の為に尸魂界から現世へと送られて来たか。

此の戦いの意味も、原因も、目的も。



―――全ては、破面を倒す為。



そんな事わかってた筈なのに。彼への返事が見付からず、声が出ない。




「…私、が…どんな思いしたか…」




私に何も云わずに消えた事。怒ってないわけないでしょ?





「ボクも同じ気持ちやった。」




「せやから、こうやって違反してまで来たん。」





震える躰を両手で押さえ付けるように抱くと、彼の腕の力が強くなる。

心地良い束縛。









「…あァ、こらあかん。」



どれだけの時間をこうしていたのだろうか。
数分なのか、数秒なのかもしれない。でもとても長く感じた。

先程まで感じていた破面の霊圧が2体消えた。



「残念やけど、そろそろ時間や。」

「…逃げる気?」

「逃がしてええの?」

「…相変わらず、意地悪ね。」



その余裕は、私の心が読めるから?





「私は仲間にはならないわ。」

「強情やねェ…こういう時も。」

「今日は逃がしてあげる。でも次逢った時は敵同士よ。」

「そらおおきに。」

「私を置いていったクセに。」

「…別にもう今更弁解しようとは思わんよ。」

「破面なんて簡単に倒してみせるから。これ以上犠牲者を出させはしない。」

「随分と強気やね。」

「…そんなの今更でしょ?」





「そういう気ィ強いとこに惚れたんやけどなァ。」






頬へと添えられた彼の大きい手。
そのまま彼が近付いて来たかと思うと、反射的に瞼が塞がる。

唇に、懐かしいほど待ちわびていた温もり。
舌先で軽く擽られると、応える様に唇が開いてしまう。





好きやで、





残りの1体の破面の霊圧が無くなったのと同時に、触れていた温もりを失った。
天から聞こえた声は、果たしてギンのものなのか空耳か。

空が割れたかと思うと、闇の中に彼が解けてゆく。



「……ギン…」



私の声は、彼に届いているのだろうか。






君を連れて

誰も居らんとこまで

逃げたら良かったんかもしれん


それでもあの人の前では最早無力なボクは


あの人に叛く事も

彼女に刃を向ける事も


自らに裁きを下す事も出来ず






「…ご免な。」





只此の戦いが終わった時、ボクはまた君の傍に。































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市丸ギン様。後半意味不明ですが、愛は充分。
余裕ぶってて実は嫁ラブなギン様が好き。お互いに強がり。

Dear*Epicurean様
From*Summer Snow :相沢千晶