初めて見たんは、下校途中の君やった。

虚を散々片付けて、返り血の匂いがこびり付いた死装束を一秒 でも早く洗い流したくて走ってたのに。

君を見つけたボクは東から西へ太陽が沈む、そんな当たり前の 世界の理のように足を止めた。

友達と談笑する君は霊感なんてカケラもなくて、恋というもの を死神のボクがするには余りにも不毛過ぎた。

でもやっぱり気になって仕方なくて。

何が、って言われても具体的には答えられんけど。

しいて言うなら、笑顔。

笑ったときに出来るえくぼとか可愛い唇から覗く八重歯とか。

そんななんでもないところに惹かれたんよ。





?何見てるの?」





教室の窓から外を見る君。

ボクの方を見てるようにも見えるけど、ボクのことは見えんは ず。

君はボクを通して空を見てるんやろう?





「誰かが…見守ってくれてる気がしたの…」





そんな言葉を残して君は窓を離れた。

ボクの気配を感じてるん?

あかん。

そんな些細なことが嬉しい。







それからボクは毎日のようにの傍にいて守り続けた。

虚は勿論、様々な障害を退け続けた。

馬鹿なことをしてるんはわかってる。

そんなんの為にならんこともわかってる。

でも守りたかった。

この腕で守れる限り、守りたかった。










「ねえ、は彼氏作らないの?」


「そうだよ、可愛いんだから勿体ないよ」


友人の言葉に胸が痛む。

そうや。

いっそ彼氏でも作ってくれたら潔く諦めもつくのに。

こんなに胸も痛まんのに。





「だって私には王子様がいるから」




嗚呼、やっぱりおるんや。

当たり前やん。

あんだけ可愛いのに想い人がおらん方がおかしいんや。

あっさりした失恋やな。

あっさりしすぎて動かれんわ。





「あのね、ずっと私を見守ってくれてる人」




「はあ?またその話?」




「だってすごいんだよ?車に跳ねられそうになったときに体が 浮いたり、上から鉄筋が落ちてきたのに私の頭スレスレで止ま ったり!」




「歩きながら寝てたの?」




「違うよ!…いつも私を見守ってくれてる感じがするの」




「超能力使えるストーカーでもいるんじゃない?」




友人の冗談を意識の遠くで聞きながら胸の鼓動が蘇るのを感じ る。

気付いてる。

はボクの存在に気付いてる。

気付いてもらえるようにわざとやってたんやけど。

それでも夢やなんて思わんと、全部信じてくれてる。





「いつか、いつかでいいの。いつか王子様に会えたらありがと うって言いたいの」





そう言っては笑った。

それはそれは綺麗に笑うから、王子様に嫉妬した。

王子様はボクやのに阿呆やね。











それから現世では長い時間が過ぎた。

死神にしたらたいした時間やないけど、は受験が控えているらしい。

もう半年も経ったんや。

早いもんやな。




「市丸」



後ろからかかった声に振り返る。



「藍染隊長」



上司が直々におでまし、ということはいよいよボクも胴体とお さらばか、と自嘲した。

藍染は困ったように笑っている。




「市丸、帰って来てくれないか?公務がたまってしょうがない よ」



「それは……できません」



藍染の目が一瞬きつくなる。







「あの子がいるからか?」







藍染の指の先には土手を歩く




「あの子が尸魂界に来ればお前も帰って来るんだな?」



「は…?何言うてはるんですか?」



思わず我が耳を疑う。

藍染の手がに向く。










「縛道の一、塞」








体が勝手に動いた。

そこから先は全部低速再生みたいにコマ送りになりながらゆっ くりして見えた。

鬼道で体が動かなくなったはそのまま土手に倒れ込んでゴロゴロと川に向かっ て転がり出す。

ここで助けんかったらは魂魄になってボクが見えるようになる。

そんなことを考える自分が嫌やった。





醜い。



汚い。



弱い。



こんな自分をに見られたない。

やからやっぱりボクはを助けなあかん。

川に向かって転がる体を捕まえて抱え込む。

川岸ギリギリのところで回転が止まる。

そして鬼道を解いてすぐにから離れた。





「何しはるんですか?!死神が普通の人間殺したらそれこそ重 罪やないですか!」




藍染は相変わらず笑うてた。



「君が助けなければ僕が助けに行ったさ」



君より賢い方法でね、と余計な一言も付いて。

ボクやって、助けるのがやなかったらもっと効率ええ助け方した。

でも相手がやと上手くものが考えれん。

咄嗟に手やら足やらが出てしまう。



「君があの子をとても愛していることがよくわかったよ」



藍染は懐に手を入れた。

そして一枚の紙を取り出してボクに渡した。

強制連行証か何かかと思うたけど、中に書かれていたことはボ クの予想外のことやった。




「『任務証』ってなんですのん?」



「君が現世にいることを許可する証だよ」




藍染はボクからそれを奪うと中の字を読み上げた。




「汝、現世において珠玲の守衛、及び魂葬を任務とする」



「それって…!」



「…何があっても珠玲を守り、寿命で死んだ彼女を魂葬するんだよ」



「やります!絶対にやり遂げます!」



「出来なかった時は今度こそ本当に君の首が飛ぶからね?」



「はい!」



藍染は苦笑しながら地獄蝶を連れて尸魂界へと帰って行った。

晴々とした空のような清んだ心になる。

見えんでもかまん。

聞こえんでもかまん。

愛してることが誇りや。




が目をこちらに向ける。

見えてないはず、やのに。

ボクの方を見て呟いた言葉は。









「ありがとう」







太陽より眩しく笑った君が何より愛しくて。

見えんでええよ。

その眼にボクが映るだけでええよ。

いつか君がおばあさんになって生きていくのが苦しくなったら 僕が連れて行くから。

その時だけ、『ギン』て呼んでくれたらええよ。