キミだけの言葉。
キミだけの特権。
キミだけの…
急ぎ足で駆ける道。
ペタペタ・パタパタと草履が鬱陶しゅうて堪らん。
ボクは脚に力を入れて立ち止まる。
ポイポイっと素早い動きで草履を脱ぎ捨て空中へ放つ。
そんな草履を手で空中キャッチ。
グッジョブ、ボク。
そして、足袋一枚となったボクはまた駆けた。
虚退治がなんやねん。
書類処理もイヤやけど、現世に駆り出されるのはもっとイヤや。
と一緒にいる時間が短なってまう。
いつもはと手を繋いで帰る道。
今日は独りぼっち。
日はとっくの昔に沈んで、辺りは紺碧と化す。
虚退治は大したコトなかった。
どっかの隊の席官が殺られたやなんやで、
ボクに回ってきたんやけど、(ちゅーかその隊内で処理しろやっつー…)
見つけた瞬間、一撃必殺。
ボクの刀の利点は遠距離攻撃に向いとるトコ。
一突きして終わった。
呆気ないなぁ。
報告書は明日。
今は少しでも早くに会いたい。
家の門が目に入る。
ボクは躊躇いなく突き抜けた。
引き戸をガラッと勢い良く開ければ、
そこには、きちんと整列された何足かの靴が。
「!!!おらへんの!?」
ボクは玄関先で叫ぶ。
入って探せばいいものを。
「はーい。…ってギン?」
は小走りでコチラへ来る。
ボクは肩で息をする。
「どうしたの?そんなに慌てて。」
そう言っては着ていた着物の帯から手拭いを出した。
白い清潔感溢れる手拭いが、の手によってボクの額へ宛てがわれる。
「ん…平気…」
母親のようにボクの汗を拭うの手を静かに払う。
は落ち着いた仕草で手拭いをしまった。
「着替えないとね。」
は微笑んでそう言うと、踵を返した。
ボクは言葉が喉に引っかかるのを感じる。
「!!」
思わず、の着物の袖を掴む。
は驚いた風な顔をして振り返った。
「何?」
ボクとの視線が交わる。
ボクとの視線がぶつかる。
「ただいま。」
そう言うとは穏やかな笑みを浮かべて、
「お帰りなさい。」
と言った。
キミにだけ捧げた言葉
(ボクの”ただいま”とキミの”お帰り”が 何より好きな、言葉のあやとり)
<アトガキ>
”愛してる”と言わせようか色々迷いましたが、
それだと在り来たりになっちゃうような気がして。(”ただいま”でも十分在り来たりです)
主催者・聖さま!素敵な企画を催し、稚拙な私に一題一任して下さってありがとうございました!