私が一人でいると、必ずやって来る人がいる。
ほら、今日も来た。
〜キミが好きだから〜
は瀞霊廷内にある中庭で、一人お昼を食べていた。
静かなところで一人すごすことが好きなは、よくここに来ている。
何かと騒がしい瀞霊廷ではあったが、ここは緑にあふれており、静かなため、のお気に入りの場所でもあった。
座って、作ってきたお弁当を食べているに、声をかける者がいた。
「またここに来とるんやね」
声のする方を見れば、そこにはニコニコと笑みを浮かべている市丸がいた。
(また来た…)
決まってがここに一人でいるとき、市丸はやって来る。
初めて出会ったときは、突然一隊の隊長が現れたので驚いたが、もう毎度のことなので、の方も慣れっこだった。
隊長だからといってえばることもなく、きさくに話しかけてきた市丸に、は次第に心を許していく。
ただ、今でも一つだけふに落ちないことがある。
それはなぜ市丸がここに来るかだ。
たまたま市丸もこの場所が好きで、来ているだけなのか。
仕事をサボるために来ているのか。
(まさか、私に会いに来てくれているわけじゃないよね)
実際、市丸のことは嫌いではないし、むしろ話をするにつれての中でも、その好感度は上がっている。
(もしそうだったら、嬉しいな…)
そのまま市丸はの横に腰をおろす。
「ここはほんまにええところやなぁ…」
爽やかな風に身を任せていると、市丸の銀色の髪が揺れる。
その姿に思わず見とれてしまう。
(綺麗…)
いつも会うからといって、大した話をするわけでもない。
ただ、とりとめのない世間話をするだけだ。
そんなのんびりとした時間を過ごしているときが、にとって楽しかった。
何だろう…。
こういうことが、幸せっていうのかな…。
何か特に変わったことがあるわけではない。
ただこの人がいれば心が和んで、温かい気持ちになれる。
「どないしたん?」
はそのまま市丸のことをずっと見つめていたようで、突然、目の前に市丸の顔があったので驚く。
「いっ、いえ!何でもありません!」
慌てて市丸から顔を逸らす。
その顔はほんのりと赤くなっていた。
そんなの姿を見て安心したのか、市丸はその場から立ち上がる。
「ほんならそろそろ戻るな」
そう言うと、市丸は笑みを浮かべながら立ち去っていった。
赤くなったであろう両頬に触れながら、はその姿を見送る。
何だろう…。
何だか変な気持ち…。
市丸隊長が側にいたからなのかな…。
次の日もが一人中庭にいると、市丸はやって来た。
「こんにちは。ちゃん」
昨日から市丸のことを考えてはぼぉっとしていたは、突然声をかけられたので驚いた。
「いっ、市丸隊長!」
普通に声をかけて驚かれたので、逆に市丸の方が驚いてしまった。
「何や。驚かせてしもたみたいやな」
少し申し訳なさそうに言う市丸を見て、慌ててが訂正する。
「すいません!少し考えごとをしていたので…」
「なら、ええんやけど」
その後、しばらく沈黙が流れる。
(どっ…どうしよう…。変に思われてしまった…?)
しかし市丸はいたって気にした様子もなく、相変わらずニコニコした表情をしている。
(それにしても、本当に何で市丸隊長はいつもここに来るのかな…)
市丸隊長は特に私に何かを求めてくるわけでもない。
ただ何か話をするだけ…。
聞いてみようかな。
何で、いつもここに来るのか。
「何や。ボクに聞きたいことあるん?」
「えっ!?」
見透かされている…!?
それとも顔に出てたのかな…。
しかしこれは聞いてみるチャンスかもしれないと、意を決しては市丸に尋ねてみることにした。
「あの…もし、お気を悪くなされたら申し訳ありません。どうして市丸隊長はいつもここへいらっしゃるのですか?」
「何や。そないなこと?」
市丸はクスクス笑っていたが、の表情は真剣そのものだった。
「ここへ来れば、ちゃんがおるから」
(えっ…?)
その言葉に一瞬、目を丸くする。
「な…なぜ…私がいるからって…」
驚きのあまりたどたどしい言葉遣いになってしまったが、市丸はさらりと言う。
「キミが好きやから」
一瞬、聞き間違えではないかと思うような言葉に、の顔は真っ赤になった。
「ずっとキミのこと見とったんよ。キミが一人になるんはこの中庭におるときだけやったから、ボクの足は自然にここへ向いとった」
キミはボクと接するときでも、普通に話してくれる。
他の人に声をかけると、ボクが隊長やからってどこか遠慮がちになってまう。
でもキミはごく自然に、ボクは隊長としてやのうて、一人の男として話すことができた。
そないなキミと過ごしとったら、どんどん惹かれてもうた。
真っ赤な顔のは、下を向きながら消え入りそうな声で言う。
「わ…私…。ここでいつも市丸隊長と話すことがとても楽しくて、ずっと市丸隊長といられたらいいなって…」
それ以上は恥ずかしさのあまり、うまく話せなかったが、市丸にはきちんと伝わっていたようで…。
「せやったら、ボクと付き合うてくれへん?ちゃん」
に向かって手を差し伸べれば、恥ずかしそうにがその手を取る。
「おおきに。ちゃん」
これからはもっと近くでお話しよな…。
end
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聖様。素敵な企画、本当にありがとうございました!
ではここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!